■10ナノメートルを実現した位置決め装置

市川宗次 シグマテック株式会社

1.開発の背景

近年、半導体の最小線幅がクォーターミクロンへと移行し、高密度化がさらに進んだ。磁気ヘッドも薄膜化が進み、MRヘッドからGMRヘッドへ移行し、さらにTMRヘッドへと移行するものと予測される。光通信技術の進歩により、数10~100GHz帯の周波数が実用化されてきたので、関連機器もよりいっそう大容量化・高速化が進むものと予想される。高密度化・高速化は、微細加工技術の進歩と関連している。したがって、位置決め技術や微細加工の表面形状の測定技術の進歩なくしては、微細加工技術を駆使した情報通信技術の発展もありえないと言っても過言ではない。
微細加工の表面形状測定には、通常、電子顕微鏡(SEM)が使用されることが多いが、最近、大気中でも気軽に取扱ができる、レーザーフォーカスとコンフォーカル技術を応用した、分解能10nmの測定機も登場してきている。このような背景から、小型位置決め装置の分野においても10nmの実現が強く望まれていた。
なお、最近のリソグラフィ(微細加工)関連の先端位置決め装置では、10nmが達成されていると考えられるが、トンボマーク(たとえば十字線)を合致させる技術であり、ここで紹介する位置決め装置と目的が異なることを承知していただきたい。




2.要素技術

本位置決め装置を実現するに当たり、次の要素技術を確立する必要があった。一つは、ステージに内蔵できる10nmを検出可能な超小型のリニアスケールの開発、これは特開平7-286816に詳細に記されているので、ここでは簡単に説明する。フレネル回析を応用した回折干渉方式のリニアスケールであり、光源にLED、受光素子には4分割ピンフォトダイオードを用いている。スケールの格子ピッチは8マイクロメートル、出力信号ピッチは、スケールの格子ピッチを光学的に2分割した4マイクロメートルの2相正弦波であり、お互いに90度の位相差を持っている。出力信号は、直結のプリアンプにより増幅され、最終段のオペアンプにて出力されている。
もう一つは、粗・微動構造と制御技術である。詳細は特開平10-58267に詳細に記されているので、要点を説明する。粗動用の5相ステッピングモータ、カップリング、ボールねじ、微動用のピエゾアクチュエータを同軸上に配置し、一対のクロスローラガイドを用いた構造を完成させたことである。このように構成することにより、構造が極めてシンプルになり、位置検出器を一つで済ませることができ、サーボの構成が容易になった。他に、10nmを達成するに当たり、ステージの材質も振動対策を配慮し、共振を起こりにくい、振動減衰特性のよいアルミ合金を選定した。
以上の技術を用いて、10nmの位置決め装置を実現したので概要を説明する。




3.概要・システム構成・特徴

図1は、本位置決め装置の外観図、図2は、説明用の内部構造図である。

変位検出器は回折干渉方式のリニアスケールのヨーイング、ローリング、ピッチングの影響を最小限にできるようベースのほぼ中央に配置した。
リニアスケールでベースに対するスライドテーブルの変位を読み取っている。リニアスケールの検出信号ピッチは4マイクロメートルの2相正弦波であり、直結されているプリアンプで増幅され、オペアンプで出力されている。スケールの材質はクォーツガラスで、線膨張係数(0.5×10‐6/℃)がきわめて小さいため、熱の影響を受けにくく信頼性が高い。
本リニアスケールは取付けギャップの許容寸法(±0.3)が大きく、モアレ(回転角)方向の微調整のみで取付け可能である。また超小型のため小型ステージへの内蔵が可能となった。粗・微動の構造は,5相ステッピングモータ、カップリング,ボールねじ、ピエゾアクチュエータを同軸上に配置した。これにより、一対の案内(クロスローラガイド)でステージを構成することが可能となった。
ここでのカップリングは回転方向の芯ズレを吸収するだけでなく、移動方向に対してバネ性を持っていることが必要である(約1mmの弾性変形をさせておくことが必要である)。本位置決め装置の動作は、駆動部断面図から5相ステッピングモータを回転させ、粗動インポジション範囲(例えば±0.3μm)に位置決めする、次にピエゾアクチュエータの印加電圧により、目標値に対して例えば±10nmに位置決めする。微動位置決め以外のときは、ピエゾアクチュエータには、70Vの電圧が印加されている。ピエゾアクチュエータの駆動電圧範囲は20~120Vであり、このときの伸縮範囲は70Vを中心に±5μmである。
5相ステッピングモータ、カップリング、ボールねじ、ピエゾアクチュエータは、同軸上に配置されているだけでなく、できる限りステージの中心に近づけた。これにより偏芯荷重の影響を最小限に抑えられる。
引張りバネは、ボールねじのバックラッシュを防止するため、スライドテーブルを常にモータ側に引張っている。同時に、スライドテーブルの凸起部をボールねじのナットに突き当てている。この構造の特徴は、ボールねじのナットがスライドテーブルにねじ等で固定されていないので、ボールねじ軸の偏芯による負荷で発生するスライドテーブルのピッチング、ヨーイングの影響を最小限に防ぐことができる。
リミットセンサは、移動範囲の検出と原点を兼用している。原点は図3のコントローラにより電気的原点として、任意の位置に設定することが可能である。
図4は、本位置決め装置のブロック図である。1台のコントローラで2軸のステージの位置決めがパソコンにより可能。パソコンとの通信はRS-232Cである。図4のように、粗・微動のスケールフィードバックシステムであり、リニアスケールの出力信号(90度位相差の2相正弦波)は、コントローラ内の内挿器にて分割され、40nmピッチの2相方形波出力に変換され、さらに10nmのアップダウンパルス信号に変換され、クローズド制御回路に送られる。
クローズド制御回路では、指令値とリニアスケールのカウント値の差分を粗動インポジション内に入るまでモータドライバにパルスを出力し、5相ステッピングモータを回転させ、粗動インポジション範囲に入れる。
粗動インポジション範囲に入ったら、自動的に微動に切り換え再び指令値とリニアスケールのカウント値の差分をピエゾドライバにパルス出力する。ピエゾドライバでD/A変換し、ピエゾアクチュエータを伸縮させ、微動インポジション範囲(例えば±10nm)に入れる。位置決め解除のとき、ピエゾドライバは中心電圧(70V)にて待機させておく。
図4におけるモータドライバはマイクロステップドライバであり、励磁電流をコントロールできるので、5相ステッピングモータの発熱を最小限に抑えられる。またCPUは,スピード・拡張性を配慮し、32ビットを搭載した。コントローラは、同時に2軸制御可能でありエラー検出も、オーバースピード、オーバーラン、エンコーダエラー、モータ脱調等が検出できる。また、サンプルプログラムも準備されている。さらにVB(ビジュアルベーシック)、LabVIEWなどで、簡単なコマンドで容易にプログラムを作製できる。取り扱いも容易である。
本位置決め装置の仕様を表1・表2に示した。特徴は、

① 最小分解能:10nm
② 繰返し位置決め精度:±10nm
③ 薄型:厚さ27mm
④ 小型(テーブルサイズ):60mm×60mm
⑤ 取り扱いが容易

であり、超小型・薄型で10nmの位置決めが可能であり、取り扱いもきわめて容易であるので超精密な装置への応用が期待できる。




4.応用分野および今後の動向

半導体関連装置、特に微細な寸法を測定したり、位置決めが必要な検査装置や露光装置等、超精密な位置決めが必要な装置への応用が考えられる。
光ファイバの軸芯調整装置等、特に詳細な特性が必要な試験装置等への応用も考えられる。電子顕微鏡(SEM)や電子描画装置(EB装置)のステージとしての応用も考えられるが、電子線の場合高真空中(10-6~10-7Torr)で、しかも誘導磁界があると問題なので、5相ステッピングモータを真空チャンバーの外に配置する必要がある。レーザーフォーカス顕微鏡を応用した高分解能の高さ測定機のステージとしての応用も考えられる。
今後も微細加工技術の進歩はさらに続くと考えられるので、この分野の応用装置としての用途拡大を期待する。
近い将来、微細加工技術の進歩により加工表面の形状寸法を原子レベルで測定することが必要となる。この時の形状測定の概念は、例えばフォトンを応用した測定装置等が出現すると考えられる。ここでの位置決め装置はナノメートル単位が必要となる。これからはナノメートルを目指して研究開発を進めていきたい。




―引 用 文 献―   (1)特開平7-286816 (2)特開平10-58267

 


ポジショニングスケール

1.検出原理

図1は検出原理を示したものであり、図1において像平面上の任意の点X0の強度I0(X0)は、

ここで、
X0,X2:像平面X0の複素振幅
Is:2次点光源Sの強度

とすると、Fresnel-Kirchhoffの回折積分よりU(X0,X2)は、

ここで
k=2π/λ
式(2)において透過率関数g(x)を

N=1/P

と仮定すれば解析は可能になる。解析は複雑なので、ここでは省略し結果のみを述べることにする。

式(1)のI0(X0)は、

u=v=d
x2=0
x0=x        a0=a1=a

とすると

となる。
式(4)よりI0(x)には、


の項が含まれている。したがって図2に示すようにg(x)がx方向へ1/2ピッチ移動すると、像平面上の光強度分布は1ピッチ移動することがわかる。反射式エンコーダへ応用すればスケールとインデックススケールのギャップdは

d=u=v

と構成できるので、ギャップ変化に対して極めて寛容なエンコーダが実現可能である。

図2は検出器の構成図である。光源(LED)によりインデックススケール面上に互いに独立(インコヒーレント)な2次線光源がつくられる。
2次線光源からの光はコヒーレントな拡散光であり、メインスケールの目盛面で回折されインデックススケール面の目盛を透過し、受光素子(4分割ピンホトダイイオード)に入れる。したがってメインスケールをピッチp移動させると受光素子からは、2周期分の明暗信号が検出できる。

各格子のピッチはP=8μmであり、インデックススケールで光学的に2分割され、400内挿分割されて分解能10nmを得る。従来この種のリニアスケールはスケールギャップdを非常に厳密に管理する必要があるのに対し、本実施例の場合、スケールギャップdの値は

d=2.3mm±0.3mm

でよい。検出器からの信号は図3の回路で出力される。

2. 特徴

① 高精度・高分解能

電装ユニット(PU-32)との組み合わせにより最大10nmの分解能が実現可能。
メインスケール(クォーツガラス)の線膨張係数:0.5×10-6/℃

② 超小型・取付容易

小型・反射式検出器でギャップ許容度±0.3mmと大きい 。