■0.1nm分解能低価格小型の位置決め装置開発とナノ操作への応用

大塚二郎 静岡理工科大学教授
市川宗次 シグマテック株式会社


超精密小型ステージ用0.5nm分解能変位センサの開発


1.緒言

ナノバイオや次世代DVDマスタリング用にストローク数十nmでザブナノメートル分解能の小型ステージが要求されている。本研究はそのようなステージのフィードバック用変位センサとして、高分解能化(0.5nm)、高精度化、検出高速化、および使用面での小型軽量化、低コスト化を達成し、しかも取扱容易な回折・干渉式の超小型変位センサを開発することを目的としている。*1




2.原理

図1で、2次点光源Sの光はメインスケールMで回折し、像平面上X0で干渉したとすると、任意の点X0の強度I0(X0)は*2,*3

ここで、U(X0,X2):像平面上の点X0の複素振幅、Is:2次点光源Sの強度である。
Fresnel-Kirchhoffの回折積分よりU(X0,X2)を求めると、


ここで、A(S):振幅, λ:波長, k=2π/λ, g(x):透過率関数,
図2のように、各スケール間のギャップu=v=dとし、g(x)をピッチPの矩形波格子(振幅a)としたとき、式(2)は近似的に次式となる。


ここで、図2の右端に正弦波で示すように、式(4)の第2項はx方向に周期は2Pなのに対し、第3項は1Pである。しかも第3項は、第2項と違って距離dを含んでいないので、第2項のみを検出できればギャップに寛容なエンコーダとなる。像平面F上にピッチPの格子(インデックススケール)を設けて、その背後に受光素子を置くと、この格子はフィルターとして作用し、第1項と第3項が受光素子に入り第2項はプラスマイナスでキャンセルされることになる。




3.変位センサの構成

図3は検出器の構成である。メインスケールMを反射式としている。発光素子(LED)Rからの光はピッチPの格子により点(線)光源となり、かつインコヒーレントな拡散光である。この光は、メインスケールの格子面で回折されインデックススケール面の目盛りを透過し、受光素子に入る。メインスケールをピッチPだけ移動させると、上記のように受光素子からは2周期分の明暗信号が検出できる。 各格子のピッチはP=1.6μmであり、インデックススケールで2分割され、4逓倍されたのち400内挿分割されて(内挿分割1600)分解能0.5nmを得る。各スケールの基材は石英ガラス(熱膨張係数0.5×10-6/℃)で、その上にクロムを蒸着し、電子線描画で格子を作った。従来この種の変位センサのスケールギャップdを非常に厳密に管理する必要があるのに対し、本実施例の場合は、前述のとおりスケールギャップdの値はおおよそでよい(d=2.3mm±0.3mm)。この場合、姿勢変化は実験によればロールθP=1.2分でもよいことがわかっている。




4.結言

まとめると次のようになる。


(1) 従来の回折・干渉に比べて、本変位センサはスケールギャップdに対して寛容なので、格子ピッチPを小さくできしかも検出部寸法wを従来品の数分の一にすることができた。
(2) 原理的には分解能0.5nmが可能であるが、今回は内挿器分割数800の関係で、1.0nmにとどまった。下に本センサの仕様を示す。



メインスケール目盛りピッチ 1.6μm
最大有効長 20mm
分解能 0.5nm
精度(20℃) ±0.5μm
最大測長速度 1mm/s


なお、本開発は科学技術振興事業団の独創的研究育成事業の援助を受けたこと、静岡理工科大学越水重臣講師の助力があったことを記し、感謝の意を表する。




文献

*1 市川宗次、樋口典仁:リニアスケールSTシリーズの検出原理と特長, ミツトヨTechnical Bulletin,39(1991)1.
*2 Max Born and Emil Wolf:Principles of Optics(6th edition), Pergamon Press(1980)383.
*3 辻内順平:工学概論Ⅱ, 朝倉書店(1979)87.


超0.5nm分解能超精密小型ステージの開発


1.緒言

平成6年に位置決め分解能10nmのステージを開発・販売して以来、次世代DVDのマスタリング装置用として、またDNAマニピュレータ用としてステージを小型化して位置決め分解能をもう一桁小さくする要求が出ている。
: 本研究の目的は、そのような要求に応えるためにフィードバック用変位センサとして今回新たに開発した回折・干渉式0.5nm分解能変位センサ(前報*1)を用いて、粗微動装置を具備した小型位置決め装置で位置決め分解能0.5nmを達成することである。




2.原理

図1に、開発したステージの構造を示す。ここで用いる変位センサは前報*1で述べたようにメインスケール1.6μmを光学的に2分割し、内挿器で1600分割して分解能0.5nmを得る予定でいたが、都合により分割数800の内挿器を用いることになった。従って変位センサの分解能1.0nmである。メインスケールはテーブルに、検出部はベースに固定されている。この変位センサは、従来の回折・干渉式変位センサと異なって、検出ヘッドとメインスケールとのギャップをd=2.3±0.3mmとあまり厳密に設定する必要はない特長を持つ。ここではストローク20mm間で測長可能である。図2は外観透視図である。
5相ステッピングモータ(5W)はボールねじ(リード1mm)を回転し、ステージはコイルばねによってモータ側に引張られている。ボールねじの左端はミニチュア玉軸受によりスラスト方向とラジアル方向に固定されている。さらに、玉軸受のアウターレースは圧電素子の右端に固定されていて圧電素子の左端はベースに固定されている。一方ステージはクロスローラガイドにより案内されている。
次のようにしてPTPによる位置決めを行う。

(i)粗動
オープンループでステッピングモータを回転して指令パルスが尽きると変位センサによるフィードバック制御に移り、テーブルが目標位置の±0.63μm以内に入るとモータは回転を停止し、ボールねじ軸の回転はロックされる。
(ii)微動
その後、目標位置とフィードバック用変位センサとの偏差分だけ圧電素子を伸縮させて、ステージを目標位置に持ってくる。 なお、ステージの大きさは60mm×60mmであり、メカ部分全体の大きさは幅60×長さ129×高さ30と小型である。





3.位置決め実験

変位センサの測定分解能1.0nmの状態でPTPのストローク1nm~5nmでステップ応答を行ったところ、除振台を用いない環境の悪いところでも確実にそのストロークだけステージを移動させることができた。このとき、ステージ変位が目標位置付近で振動を示すことも全くなかった。
表1に各ストロークのステップ応答の位置決め時間を示す。




4.結言

内挿器の都合によりフィードバック用の変位センサの分解能1.0nmの状態でステッピングモータとボールねじの組み合わせによる粗動と、その後の圧電素子による変位フィードバック制御を適用した微動を行うことにより、1.0nmの分解能の位置決めを達成することができた。

本開発は、科学技術振興事業団の独創的研究育成事業の援助を受けたこと、静岡理工科大学越水重臣講師の助力があったことを記し、感謝の意を表する。




文献

*1 大塚二郎, 市川宗次:超精密小型ステージ用0.5nm分解能変位センサの開発, 2001年度精密工学会秋季大会講演論文集(2001).